令和元年度「家庭の日」作品コンクール 最優秀賞(中学・高学生の部)

三世代の絆で祖母を支える

いわき市立中央台南中学校 2年 清水 朋子

私の祖父母は車で二時間ほど離れた街で暮らしています。戦前生まれの祖父は、私たち孫九人に、夏になると必ず戦争の話をしてくれ、それだけでなく、花の名前や川遊び、木登りのこつや歴史の話など、何を聞いても答えが返ってくる物知り博士。
そんな祖父が、今年の五月に亡くなり、祖母は広い庭の一軒家で一人で暮らしていくことになりました。おしどり夫婦だった分、祖母の寂しさは見ていて痛々しいほどで、祖母を一人にするわけにはいかないだろうと、祖母も交えて家族みんなでいろんな意見を出し合いました。

 まず、大前提として、祖母は祖父と生活してきた家でこれからも暮らしていくことは変えないことになりました。この家の庭は私たちの大切な場所で、祖父が「挑戦の木」と、命名した大きな泰山木に、小学校中学年くらいから木登りの挑戦をするのです。
庭の真ん中にある芝生のスペースでは、夏になると花火やスイカ割りをします。祖父も、自分がいなくなった後も、この場所が子どもや孫の集まる場所であってほしい、という希望がありました。

 では、誰も祖母と同居できない状況の中で、どうしたら祖母を一人にしないことができるのでしょう。真っ先に出たアイデアは、ラインで三世代全員が入ったグループを作ることでした。祖母は五年前からタブレット端末を使いこなしているので、操作は心配ありません。そこに、身近にあった出来事を何でも報告し、祖母に元気を届けることにしました。
 最初は私たちが部活動の結果報告などをしていましたが、そのうち祖母の方が、日付と写真入りの便りを毎日送ってくれるようになりました。最初の一か月は、庭の花の写真と名前を調べて送ってくれました。今まで花の名前は祖父に聞けばすぐに分かったので、知識という面でも祖父の存在は大きかったと気づいたそうです。そして、そういう気付きや思いをみんなで一緒に共有するのです。

 四十九日が近づいてからは、祖母は連日お客様の対応で忙しく、食事どころではない時もあったようです。そこで、一人暮らしの食事という問題に祖母はぶつかりました。小学校の教師をしていた祖父は話し手、祖母は料理上手、お客様が来ると、祖父の楽しい話に祖母が料理で花を添えるというのが二人の役割分担だったのですが、その絶妙なバランス関係が崩れてしまい、ある時、祖母が
「何もする気が起きない。食事はただ詰め込むだけのもの。」
と言うのを聞いた時には、孫たちが祖母に元気を届けなくては、と思いました。週末になるべく祖母の家に連れて行ってもらい、従姉妹たちで協力しながら食事担当をしました。中学生になり、台所の包丁やガスも大人の見守りなしで勝手に使わせてもらえるようになった楽しさ、従姉妹同士でメニューを考えて祖母が喜んでくれるという嬉しさ、自分が誰かの支えになっているという自信。そういうものが全部詰まった、私にとって大切な時間でもありました。

祖父の祭壇にも供えて、
「今日は、みんなでチャーハン作ったよ。」
と声をかけ、カーンと仏壇の鐘を鳴らすのです。朝起きたら、挨拶のカーン。宿題が終わったら、報告のカーン。孫たちみんなでそんな調子なので、六年生の従妹は、
「じいちゃんがしんだ気がしない。」
と言っていました。私もそう思います。亡くなった時は悲しくてたくさん泣いたけど、みんなで祖母を支えるうちに、祖父は全く別の世界に行ったのではなく、いつも自分たちのそばにいるし、自分の中にもいるし、それに家族みんなが祖母の家に行く回数が増え、交流が増え、それはある意味、みんなの絆を強いものにするという、祖父からのプレゼントなんだと感じるようになりました。

 祖父からのプレゼントがもう一つありました。夏休みに従姉妹たちで川に釣りに行くことになりました。祖父がいたら、すぐに竿や仕掛けを準備して一緒に行ってくれたはずですが、釣り竿はたくさん残っているけど、それをどうしたらいいか分かりません。すると、その時に来ていた祖父の教え子の方が、
「俺が初めて釣りをしたのは、おじいちゃんに川釣りを教えてもらった時なんだよ。」
と言って、竿の準備を全部してくれました。祖父がいなくなっても、祖父の残したものを引き継いでくれた人が私たちを助けてくれる。祖父はそんな人との繋がりというかけがえのないものも私たちに残してくれたのです。

 そんな出来事の一つ一つが、少しずつ祖母の心を癒やし、新しい生活を作り上げるエネルギーになったようです。
 この三か月で、一人暮らしになった祖母を遠くからでも支えるシステムが、私たち家族には確立されました。大切なのは、日々の出来事を家族みんなで共有し、祖母を支えてくれる人たちを大切にすることだと思いました。そんな絆の土台をしっかり作ってくれた祖父に感謝し、これからも祖母を支えていきます。