第38回少年の主張 福島県大会 優良賞

世界を照らす第一歩

伊達市立月舘中学校 3年 関根 蒼空

連日、新聞の紙面を飾る各国のテロ。時に三桁にも及ぶ死者の人数を知れば、良い思いはしません。ほとんどの人が、遠い異国の死者や家族に同情し、犯人を憎むでしょう。では、その犯人とは一体誰でしょう。きっとイスラム系などと、その人種を挙げる人がほとんどだと思います。実際メディアの多くがそう報じています。そのため、テロをはじめとする異国の事件の犯人は、人種でくくられ、世界に広まっています。これは間違っていると私は思います。だって、犯人以外のその人種の人達には何の罪もないのですから。それなのに私達の曖昧な認識のせいで、理不尽にも悪いイメージが定着してしまっています。このイメージが肥大化し、やがて負の連鎖を生み出してしまうのではないかと、私は悪い予感がしてなりません。

昨年の12月、私は福島県PTA連合会と水俣市PTA連絡協議会が主催する「福島・水俣交流事業」に参加するために、熊本県を訪れました。昨年度で3回目となったこの事業は、水俣病による被害や人々の苦しみを知り、そこから復興に向かっていった姿を学び、東日本大震災からの福島県の復興に繋げていくというものです。すでに知っている人もいるかと思いますが、水俣病とは日本四大公害病の一つに数えられる病気で、熊本県水俣市にある化学工場が、排水とともに海に流したメチル水銀が魚に蓄積し、その魚を人間が食べたことで発生しました。この公害病について実際に見聞きし、水俣の中学生と熟議を重ねた三泊四日の日々は、私を大きく成長させてくれました。その中で私が最も強く感じたことは、「正しい情報を知り、それを信じることの大切さ」です。水俣では当時「水俣病は人にうつる病気だ」という噂が流れ、水俣病患者やその家族は、いじめや結婚の不自由といったひどい差別を受けたそうです。実際に水俣語り部の男性は「水俣病患者の家族だなんて絶対に知られたくなかった」とおっしゃっていました。これは、周りの人の水俣病についての無知が原因だと思います。何も知らないからこそ、不確かな情報に流され、それを信じきってしまうのです。そしてこの偏見は、水俣病の原因が明らかになり、他人に感染する病気ではないとわかってからも続きました。同じ市民でありながら、患者とその他の市民の対話は途絶え、地域社会のつながりは壊れていきました。また、誤った情報による誤解から生じた差別や偏見の目によって、患者だけでなく水俣市民が差別されることもあったそうです。このようにして、かつての水俣市は患者だけでなく、水俣市民全体が長い間つらい思いをしてきました。

では、このような負の連鎖をなくすためにはどうしたらよいのでしょうか。今の私たちにできることはなんでしょうか。

それは正しい情報を見極め、信じたうえでその情報を周りに発信していくことだと思います。震災後の風評被害の影響で、出荷量が急減し、大打撃を受けた福島の農作物も、厳しい検査を通過しているその安全さ、そしてその美味しさをPRし続けたことで、今では出荷量が震災以前とほぼ変わらないほどに回復しています。このように、正しい情報を繰り返し発信し、人々の誤った知識を塗り替えていけば、必ず変化は訪れます。そしてこの変化は、誰にでも作り出すことができるのです。まずは正しい情報を信じること。そして、それを周りの人に正しく伝えていくこと。ささいなことでも、やがてそれが広がり、きっと変化は生まれます。

松明の火は自分の周りしか照らせないけど、その松明から、たくさんの人たちが火を移して掲げていったら、ずっとずっと広い世界が、闇の中から浮かびあがって見えてくるでしょう?

私の好きな本の一節で、主人公が言った言葉。私は彼女に語りかけられているように感じました。差別や偏見をなくし、生み出さないためには、まさにこれが大事なのです。

私はこの主張を通して、皆さんの松明に火を移せたでしょうか。一つでも受け取ってくださった人は、どうかそれを周りの人にも移していってください。この火がやがて世界を照らせるように。