第39回少年の主張 福島県大会 優良賞

コンプレックスを乗り越えて

郡山市立郡山第七中学校 3年 大澤由香里

 私はたくさんのコンプレックスがあります。容姿のこと、性格のこと、成績のことなどたくさんありますが特に大きかったのは、重度の自閉症である弟のことです。

 よく、弟を連れ家族で外出している時に、言葉を発することのできない弟は生まれたばかりの赤ちゃんのような声を発することがあります。すると当然周りの人達は不思議がってこちらを見ます。この瞬間が、私にとってとても恐ろしくてたまらなかったのです。よくそうなると弟から離れて他人のふりをしていたこともあります。今思うと、そこまで私は弟のことが疎ましく思っていたのだろうと思います。

 だから、私はよく弟が普通の人だったらよかったのに。そうだったら、周りから白い目で見られることはないのに。何故、私ばかりこんな目にあわなければいけないのかと本気で思っていました。

 でも、そんな弟へのコンプレックスを乗り越えようと思うきっかけをつくったのは、父の仕事で家族全員で、春休みに二泊三日で大阪に行ったときのことでした。

 そこに行ってまず驚いたことは、弟のように普通の職場では働くのが困難な障がい者が大勢働いている作業場があるということです。その作業場を作った人自身も体が不自由で、自由に言葉を発することもできない人でした。そこで働いている人の多くは障がい者ですが、普通の人もいて障がい者といっしょに働いていても全然苦にならないというのです。むしろ、そこで働く人達は普通の人も障がいを持つ人もみんなで助け合っていい雰囲気をつくっていました。私は、弟のような障がい者でも受け入れてくれる人達がいることを改めて知りました。

 そして最も驚いたのは、弟のような重度の障がい者でも、理解してくれる人がいるということです。それは昼食にしようと作業場で働くスタッフの方達といっしょに万博公園へ行ったときのことです。そこでお昼にしようとシートを敷いていた時、弟が興奮し、声をあげてさわいでしまいました。どうせまた白い目でこっちを見ている人がいるだろうなと思い周りを見てみると、周りの人々は全然気にならない様子で、お花見を楽しんでいたのです。どうして気にならないのだろうと思い聞いてみると、作業場のスタッフの方はこう言ったのです。

 「楽しいのは誰でもいっしょだよ。」

 そう言われてハッとしました。弟は意味もなく声を発しているわけではないのだと……。楽しくてつい声が出るのは誰でもそうなのだと……。当然作業場のスタッフの方達はそんな弟の様子を少しも嫌がらず、いっしょにお弁当を食べたり、桜を見たりして互いに楽しんでいました。私は、弟のような障がい者でも白い目で見ず、理解しようとする人達もいることを知りました。

 私はこの大阪旅行で初めて、障がい者を何もできない困った人だと決めつけず、何でもできることに挑戦させてあげたいと受け入れてくれる人達に出会えました。この出会いを通して、弟は普通でなくても、何もできないわけではなく、むしろ重度の自閉症だからこそできることがきっとあるはずだと思えるようになりました。そう、私は初めて弟を理解し、受け入れようとすることができたのです。

 今のところまだ、私は完全に弟を理解して受け入れることができたわけではありません。しかし、私自身が重度の自閉症の弟がいるというコンプレックスを乗り越えることと、いつか世の中が障がい者を理解し、ごく自然のこととして受け入れることと、障がい者の人達も普通ではないというコンプレックスを乗り越えられることの手助けをしていきたいと思います。その時、私自身も他のコンプレックスを乗り越えられるような気がしてたまらないのです。