第39回少年の主張 福島県大会 優良賞

福島を笑顔に

南会津町立南会津中学校 3年 平野  勝

 今の福島に笑顔はあるのだろうか。

 6年前の東日本大震災では地震、津波、原発事故が福島を襲った。そして被災者の心にも大きな傷を残した。それでも当時、まだ幼かった僕は、正直その状況が理解できず、緊急下校になったことを無邪気に喜び、下校途中に近所の犬と遊んでいたことを覚えている。その程度の軽い気持ちだった。そんな僕の目に飛び込んできた衝撃的なテレビの映像。押し寄せる津波に飲み込まれていく人、そして町並。原子炉建屋から立ちのぼる煙。言葉を失った。あの時を境に福島に本当の笑顔は消えたように思えた。

 そして6年後の今、福島はどう変わっただろうか。復旧、復興、再生。この言葉を胸に一生懸命努力してきた人達のおかげで、明るい福島が少しずつ息を吹き返してきたように僕は感じている。そんな中、僕が感動したのは、福島を本拠地とするプロ野球チーム、ルートインBCL(ベースボールチャレンジリーグ)に所属する福島ホープスの活動だ。福島ホープスは震災の影響で避難や外遊びの制限を余儀なくされた子ども達に、野球を通じて「希望」を持ってほしいという思いから2014年に活動を開始した。去年の冬、南会津町でホープスの野球教室が行われ、僕も参加させていただいたが、たくさんの選手が親身になって僕達の指導にあたってくれた。そしてゴールデンウィークに行われた公式戦では、多くの観客が集まり、出店屋台も出て大盛況だった。試合もホームランが3本も飛び出す素晴らしいゲーム展開。周りを見てみると、そこにはたくさんの笑顔があふれていた。

 子どももお年寄りもみんなが笑っていた。

 「福島は元気だ!」と証明するような試合だった。2020年には東京オリンピックの野球・ソフトボールの試合が県営あづま球場で行われる。たくさんの人が会場に足を運び、活気を取り戻した福島を直に感じてもらうことで、さらに笑顔の輪が広がっていくと信じている。

 たくさんのひとの頑張りと支えによって、僕達、そして福島は少しずつ、でも確実に本当の笑顔を取り戻すことができていると僕は思う。

 しかし一方で、避難している小学生がいじめに遭ったというニュースを耳にした。悲しい現実である。「わからない」ということが不安を募らせ、誤解を呼ぶ。それもいじめにつながる要因の一つかもしれない。今の僕達にできることはと考えたとき、福島の「食」の安全と元気な姿を自分たちの手で発信することも大切だと気がついた。その一つの方法として、今回僕達が取り組んだ修学旅行の実践活動も挙げられるだろう。それは南会津町の特産品をPRして販売したことだ。僕達は東京都墨田区のキラキラ橘商店街で南会津町の特産品を販売し、安全な「食」を提供した。どれだけの人が集まってくれるか初めは不安だったが、当日には多くの人が買いに来てくれた。その人達の優しい言葉かけが何より嬉しかった。他県の人達が福島を応援してくれていることを再認識することもできた。その気持ちに後押しされ、初めのうちはぎこちなかった僕達の呼び声も、「いらっしゃいませ」と大きくなっていき、どんどん笑顔になっていった。舘岩で作られた豆腐を口にした小さな子どもが「甘い」と喜んでくれたこと、地元の力士がちゃんこで使う味噌を買いに来てくれたこと。どれも大切な温かい思い出となった。この体験を通して、サポートしてくれる方々のおかげで、自分達にも発信できる力があることを学んだ。自分達が笑顔でいることが、新しい笑顔につながることを強く感じることもできた。

 確かに福島は完全に復興にたどりついたわけではない。まだまだ避難している人や仮設住宅で生活している人もいる。福島にもっともっと笑顔が戻ってくるように、僕達も福島のためにできることは何かを考え、行動していくことが大切なのではないだろうか。それが福島に生きる僕達の使命だと思う。