第39回少年の主張 福島県大会 優良賞

命を守るために

伊達市立伊達中学校 3年 渡邉 羽由

 私はすっかり忘れてしまっていました。あの大震災の恐怖を。そして、その後に待っていた不自由な生活を。それを思い出させてくれたのは、昨年4月に起こった熊本地震でした。毎日の様に報道される現地の様子を見ながら、私は東日本大震災の記録をたどっていました。

 6年前の3月11日、午後2時46分。突然私たちを激しい揺れが襲ったのです。私は当時小学2年生。地震が起きた日、私は「おたふくかぜ」にかかって学校を休んでおり、何をすることもなく自宅の一階の茶の間でテレビを見ていました。そのとき、テレビの右下に何かたくさんの文字が表示されたのを今でも覚えています。幼かった私には何がなんだか分からず、ただ不安な気持ちでテレビを見つめることしかできませんでした。が、次の瞬間、その不安が恐怖に変わったのです。庭の木々が大きく動き、電線が激しく揺れ、パソコンの横に並んでいた資料がドミノのように次々と倒れ始めました。私はどうしてよいのか分からず、家の裏口の柱にただつかまっているしかありませんでした。揺れが収まり家族が家に戻ってきて、やっと片付けをしようとしているとき、ふと姉がテレビをつけたのですが、そのテレビに映っていた光景を今でも忘れられません。とてつもなく大きな津波が、車を、人を、家を、街を次々と飲み込んでいくのです。私は声を出すこともできず、ただ呆然とテレビを見ているしかありませんでした。その時の様子を、熊本の報道を見ながらまるで昨日のように思い出しました。そして、今、悲しみ、苦しんでいる熊本の被災者の方々を応援したいと思うと同時に、どうすれば災害のときの被害を最小限に防ぐことができるのだろうか、いろいろと思いをめぐらすようになりました。

 そんなとき、学校で「防災リーダー養成プログラム」というものが実施されることを知りました。このプログラムは、福島から中学生・高校生の「防災リーダー」を育てていこうとするもので、もし、災害が起きたとき、自分の命を守り、地域の人々の命を守るために、どう判断し、どう行動すればいいのかを知り、考え、行動し、発信していきます。年間9回のプログラムで防災のさまざまな知識について学習していきます。昨年7月には、宮城県石巻市に視察にも行きました。また、9月にはフォレストパークあだたらで災害対応キャンプに参加し、被災時のサバイバル技法などを実際に体験しながら学びました。そして、11月には、熊本の宇土高校の皆さんが伊達中学校に来て、体育館を避難所に見立て、避難所運営の方法についていっしょに学びました。実際に避難所での生活を体験した高校生とふれあい、その体験を教えてもらうことができてとても勉強になりました。そして、それらの体験で学んだことを防災カルタを作ったりして、地域の方々に発信することができました。

 私は、このプログラムに参加することで、万が一、災害にあったときに、自分の命や身近な人の命を守りたいと思う気持ちがより強くなったように思います。ところが、このプログラムに参加するまでの私は、あの怖かった東日本大震災の記憶を忘れてしまっており、防災などまるで人事でした。しかし、災害はいつ起こるかわかりません。「災害は忘れたころにやってくる」とも言います。今年も信じられないような大雨の被害が現実に起こっています。だから、私たちは常日頃から被災時に備えておくことが大切だと思います。私は、これからもプログラムに参加した多くの仲間たちとともに、東日本大震災のときの記憶を風化させることなく、防災や減災に努め、自分の知識や能力を高め、地域の方々に発信していきたいと思います。自分を、そして、自分の大切な人たちを守るために。