第40回少年の主張 福島県大会 優秀賞

鹿島の一本松のように

南相馬市立鹿島中学校 3年 荒 咲太郎

 みなさんは、鹿島区にあった「奇跡の一本松」を知っていますか。

 この松は、東日本大震災の津波に耐え、唯一流されずに残った松として、紹介されこともあります。残念ながら立ち枯れが進んだため伐採となりましたが、初めてその木を見上げた時、どうしてこの松だけ流されずに残ることができたのだろう、どうしてこんなにも堂々と立っていられるのだろう、と私は不思議に思いました。松の木は、3分の2まで海水をかぶってしまったため、幹も枝も茶色く変色していました。しかし、根っこは大地にしっかりとはり、震災後6年もの間倒れずに立っていたのです。私は津波に耐え、幹を支え続けた根っこの強さに驚きました。その後、何回か松を見に行くうちに、「私も、この松のように根っこを強くして、ちょっとやそっとのことでは倒れない心を作っていきたい」と思うようになりました。

 私がそう思ったのは、毎日の生活の中で、自分の心が弱いと感じることがあったからです。私は剣道部に所属していますが、試合の後、顧問の先生から、

 「負けると気持ちが顔に出る。気持ちの切り替えがなかなかできない。」

 と注意されたことが何回もありました。確かに、私は試合で負けたり、何か失敗したりするといつまでもそのことを気にして、立ち直るまでに時間がかかってしまいます。一方、剣道で勝つ人やトップアスリートと呼ばれている人達を見ると、気持ちの切り替えが早くいつも冷静に試合に臨んでいます。

 男子フィギュアスケートの羽生選手は、ケガをしながらも、オリンピックで二連覇を果たしました。ケガの痛みや金メダルを期待する周りからのプレッシャーは、相当あったと思います。しかし、そんな不安などを見せずに羽生選手は冷静に自分の演技をしていました。私はそれを見て、金メダルへのプレッシャーなどに打ち勝つ強さは、いったいどこからくるのだろうと思いました。以前、羽生選手は、

 「一番の敵は自分自身。」

 「プレッシャーを感じても乗り越えることができれば、自分が強くなれる。」

 と話していました。自分の弱さと向き合い、金メダルを取るというはっきりとした目標を持って練習に臨んでいるからこそ、羽生選手は強いのだと思います。また、スケートが好きで、それに向けて頑張ろう、絶対に負けたくないという気持ちがあるから、どんな困難があってもやり遂げることができたのだと思います。

 今までの私は、試合に負けたのは相手が強いからとか、審判がよく見ていなかったからなど誰かのせいにして、自分の弱さから目を背けていました。しかし、鹿島の海岸にたった一本になっても立ち続けている松を見て、私もいろいろな辛いことに負けない強さを持つ人になりたいと思うようになりました。

 そのために、私がこれから心がけていきたいことは、ちょっとのことではブレない心を作っていくことです。剣道では自分の弱点である集中力のなさ、技に対する自信のなさなどを減らしていくこと。受験生としては自分の将来に向けて真剣に考え、勉強に取り組むこと。残された中学校生活の中で自分を変えていくチャンスはたくさんあります。いろいろな困難やプレッシャーがあってもくじけず自分に負けない心、自分に自信を持って目標達成に向けて前向きに進む心。そのような心を育てていけるようにしたいと思っています。

 津波に耐え、震災後はたくさんの人々を勇気づけてきた「鹿島の奇跡の一本松」。この木のように、私も自分の心を強くして、誰かを勇気づけることができる人になりたい。そのためにも、毎日の生活の中で、自分の根っこをしっかりと伸ばし、大地に堂々と立つことができるように自分を成長させていきたいと思います。