第40回少年の主張 福島県大会 優良賞

「自分らしく生きる」

須賀川市立第三中学校 3年 鈴木 眞優

 忘れられない言葉があります。

 「鳥は飛び方を変えることはできない。動物は走り方を変えることはできない。でも、人間は生き方を変えることができる。」

 100歳を超えても現役の医師であり続けた、日野原重明氏の言葉です。この言葉に出会ったのは、中学校に入学して間もない頃です。新しい生活に胸を膨らませ、部活動も頑張ろうと思い入部したバレーボール部。慣れないながらも、練習に励んでいた6月のある日の出来事でした。ジャンプして着地した瞬間、右膝に激痛が走り、力が入らないまま、床に倒れこんでしまいました。その時は、何が起きたのか分からず、頭が真っ白になりました。後から分かったことですが、右膝のじん帯が切れて関節が外れ、脱臼したのです。

 病院へ行って、担当の先生から

 「これからバレーを続けるのは、難しいかもしれないね。もし、また同じケガをしたら次は膝を手術することになるよ。」

 と告げられました。「ちょっとひねっただけ。しばらく休めば治るから、きっと大丈夫」と思い込んでいた私は、衝撃のあまり何の言葉も発することができませんでした。一緒に話を聞いていた父の

 「そうですか…。」

 と言った一言が、冷たい診察室に吸い込まれて消えていきました。手術に対する不安感、部活を辞めるかもしれない挫折感、これからどうしていいか分からない失望感がぐちゃぐちゃに混ざりながら私の心の中を埋めつくしていきました。その後、診察室を出てから家へ帰るまでの事は、よく覚えていません。しかし、あの時の医師の一言は、私の心の奥に染みついています。

 膝の不安を抱えながらバレーを続けることがいいのか、毎日一人で悩んでいました。家族に余計な心配をかけないように、しばらくはバレー部を辞めずにいました。友達からも「何で部活来ないの?」

 と言われた事もあったので、見学だけでも行ってみようと思いました。しかし、私だけが練習できずに取り残されているという気持ちが日に日に募っていきました。そして、バレーができない自分がみじめになり、次第に足も遠のいてしまいました。

 一度頑張ると決めたのに、途中でやめる挫折感を感じながら、日々を過ごしていました。そんな時に出会ったのが、この言葉です。

 「人間は生き方を変えることができる。」

 この言葉は私にとって、

 「自分らしく生き方を変えて良いんだよ。」

 と背中を押されるように聞こえました。

 それからは、もやもやした霧が一気に晴れたように、考え方も前向きになることができました。バレーは諦めなくてはならないけれど、もう一度新しいことにチャレンジできるんだと考えられるようになったのです。

 私は今まで経験したことのない、カルタの世界に挑戦しようと決め、転部を決意しました。それからは、同級生への遅れを取り戻そうと、必死でした。諦めたら、自分の生き方も否定するような気がしたからです。

 コツコツと練習を積み重ねていった、2年生の秋。何と、大会で優勝することができたのです。小さな大会での優勝でした。でも、私にとってそれはとても大きな価値のある結果でした。あの時の思い、あの時の選択が自分にとって間違いではなかったと思えたからです。

 日々の生活の中で、順調に進んでいる道でも、ある日突然道が閉ざされることがあるかもしれません。頂上の手前まで登りつめた山から、一瞬にして滑り落ちることがあるかもしれません。でも目標は一つだけではないし、その道のりも一つだけではないと思うのです。

 「人間は生き方を変えることができる。」

 のですから。