第41回少年の主張 福島県大会 優秀賞

お帰りなさい、ふるさとへ

郡山市立守山中学校 3年 矢吹琢朗

 年に一度の山中祭り。会場を照らす明るいちょうちん。香ばしい焼き鶏や焼きそばのいい匂い。にぎやかな人々の笑い声。広場には大きな櫓が組まれ、僕が叩く太鼓のリズムに合わせ、地域の人たちが輪になって、盆踊りを踊っています。そう、僕はついに櫓の上で盆太鼓を叩くことができたのです。夢が叶った瞬間でした。

 ちょうど一年前も、僕はこの会場に遊びに来ていました。華やかな太鼓の音に誘われ、手足を動かしてみると、自然に振り付けやかけ声も覚えていきました。それを見ていた先輩や友達も、次々と踊りの輪に加わって、なんとも言えない一体感に包まれたことを覚えています。帰る時間になると、地域の方が、

「今日は、ありがとね。」

とねぎらいの一言を添えて、飲み物を手渡してくれました。その時僕は、なぜ自分がこうも盆踊りや太鼓に惹かれるのか知りたいと思いました。そして、「来年は絶対に櫓の上で太鼓を叩いてやる。」と決心したのでした。

 あれから一年、いよいよ山中祭りを一週間後に控え、僕は同じく太鼓を叩きたいという友達や先輩と一緒に、地元の方が教える太鼓の練習会に参加しました。部活でくたびれていた体は、太鼓の音色でシャキっとし、バチを握る掌にできたまめすらも、勲章のように思えました。講師の先生や地域の方々に優しくていねいに分かりやすく指導していただいたおかげで、初めて参加した僕でも上手に叩くことができ、ワクワク感が一層高まってきました。

 そして迎えた祭り当日、僕は逸る心を抑えながら櫓に登りました。いよいよ本番。威勢のいいかけ声と共に、盆太鼓が打ち鳴らされました。三番手の僕は、緊張のあまり、太鼓の面ばかり見ていました。しかし、だんだん余裕ができて周りを見渡すと、地域の方々が一年ぶりの輪踊りを楽しんでいます。時間が経つと、知った顔の小学生たちも輪の中に加わって、元気なかけ声で励ましてくれました。負けじと、僕たちも櫓の上で大きな声を出し、去年以上に強く、地域の一体感を味わうことができたのでした。

 この盆太鼓の経験から、僕は伝統芸能について思い出したことがありました。それは僕が小学生の時に訪れた川内村のことです。川内村は東日本大震災により、村民全員が避難を余儀なくされた所です。村の祭りは震災一年後、「復興祭」という形で復活しました。しかし、住民の帰還や復興も思うように進まない中行われたため、一時中断したそうです。その後、村の伝統芸能の継承や特産品の魅力の発信、そして、避難生活によってなかなか会えない川内村民が集う場として「かわうち祭り」が開かれました。その中で、川内村の復興を願って復活したのが「三匹獅子」です。この獅子舞は約四百年以上前から村に伝わるもので、福島県の重要無形文化財にもなっています。事業費の不足を補うため、クラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げたところ見事に成立し、今年も祭りを開催できるということでした。この祭りに込められた「ふるさと」を大切にする気持ちは、離ればなれになっている人をつなぐ力、地域を一つにする力の源になっていることを知りました。そして、深い苦しみや悲しみの中でも、ふるさとを愛する心で人々は結ばれていることがわかりました。

 ようやく、僕は気づきました。僕を踊りの輪に引き込んだもの、あの櫓の上で盆太鼓を叩きたいと強く願わせたもの、それは、たとえ遠く離れて暮らしていても帰りたい場所、魂が帰る場所が人の心の奥底にある、ということです。僕は、来年もまた、この櫓に上ることでしょう。そして、ふるさとへの愛を込めて、帰ってきた人々に伝えます。

「おかえりなさい、ふるさとへ。」