第41回少年の主張 福島県大会 優良賞

偏見を持たずに

郡山市立安積中学校 3年 伊勢崎千慧

 「認知症。」この言葉を聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか。汚い。気持ち悪い。一緒にいたくない。なんとなくこんなイメージが浮かぶのではないでしょうか。

では、もし、あなたにとって大切な人がそうなってしまったらどうですか。自分の母や父、祖父や祖母が「認知症」と診断されても、同じ事が言えますか。

私の祖父が認知症と診断されたのは、少し前のことでした。「アルツハイマー型認知症。」名前を聞いたことがある人も多いと思います。最初は、加齢に伴う物忘れの症状から始まり、進行していくと、家族や友人の識別ができなくなって、意思疎通が困難になってしまう事もあります。実は私も、認知症に対して先ほど述べたようなイメージを持っていました。ですから、祖父の発症を知った時は、祖父の事は大好きなのに、嫌な事を考えてしまいました。

そんな時、祖父に会うことになりました。私は、認知症のことがどうしても頭から離れなくて、ずっと嫌な事ばかり考えていました。

でも、以前と変わらない笑顔で私を出迎えてくれた祖父を見てこう思いました。

「何も変わらない。認知症になっても祖父は祖父だ。」

まさに、その通りでした。確かに祖父は、何度も同じ事を繰り返したり、物忘れが多くなったような気がしましたが、私が嬉しかった事を報告したら、喜んで聞いてくれました。私の話をずっとずっと楽しそうに聞いてくれました。以前と変わらない大好きな祖父の姿がそこにはありました。

「きっと大丈夫。祖父は祖父だから。」

私の中に安心が広がりました。

 ところが、その思いが一変する出来事が待っていました。

 みんなで夕飯を食べた時の事です。なぜか祖父は、母のおかずを食べ始めたのです。その時は、笑って済ませましたが、今度は、私のおかずに手を出し、全部食べてしまいました。びっくりした私は、

「これ、私のだから食べないで。」

と注意しましたが、

「食べてないよ。」

の一点張り。そのやり取りを見ていた母から、祖父のおかずを分けてもらうように言われましたが、私は祖父のおかずを食べるのは嫌でした。そして、思わず、

「そんなの絶対に食べたくない!」

と言ってしまいました。その時、祖父が初めて悲しそうな顔をしました。

 その晩、母に言われました。

「おじいちゃん、確かに何回も同じ事を話しちゃうし、人のおかずを食べちゃう時もあるけど、悪気があるわけじゃないから、許してあげてね。しょうがないの。いろいろなことができなくなってしまうのよ。」

そう言う母の目には、涙が浮かんでいました。祖父は、母の父です。母は、私と祖父のやり取りをどんな思いで聞いていたのでしょうか。そして、祖父は、私の「そんなの絶対に食べたくない!」という言葉をどういう思いで聞いたのでしょうか。そう思うと、胸が苦しくなります。

 認知症になると、どうしても以前と変わってしまいます。ですが、本質は変わらないはずです。前も今も同じ人。大切なのは、偏見を持たず、その人のありのままを受け入れることだと思います。そのために、私達がまず、変わる必要があると思います。同じ話を何度でも笑顔で聞く。笑顔で話しかける。その人と今まで通り普通に接する。まずは、簡単なことから始めましょう。そして、私達が、ありのままのその人を、ありのままに受け入れることができたら、認知症に対する考え方が、少しずつ変わっていくと思います。高齢化が進む日本では、誰もが認知症と向き合う時が来るかもしれません。その時、みんなが笑顔で過ごせる世の中になることを心から願います。