第42回少年の主張 福島県大会 優秀賞

魔法の処方箋

西郷村立川谷中学校 2年 須藤 晴音


 私たちが住んでいる世界は、楽しいことだらけで創られているわけではありません。むしろ、最近は、悲しい出来事の方が目につきます。私は特に、有名人の自殺のニュースが気になりました。また、統計的に見ても、日本の19歳以下の若者の死因の1位は、自殺だということです。その原因や解決法を軽々しく口にすることはできません。ただ、その時の、本人の気持ちを考えると、私は、心臓がねじれるような、とても悲しい気持ちになるのです。そこで、私のもっている魔法の処方箋が、何かの役に立つのではないかと考えました。これさえあれば、毎日楽しくなる魔法の処方箋。私は、みなさんに、そんな、魔法をお渡しするために、今日ここに来ました。

 その処方箋を手に入れたのは、私が小学2年生の時でした。その頃、大きな病にかかりひとり入院していました。明日生きることができるか、もしかしたら今日死んでしまうかもしれない、もう大好きな家族にも会えなくなってしまうかもしれない、死の恐怖と何とも言えない不安に押しつぶされそうな毎日でした。今でも、その苦しさ、怖さ、寂しさを鮮明に覚えています。そんな不安な気持ちでいっぱいであった私を救ってくれたのは、お医者さんが処方してくれた薬ではありません。お医者さん、その人でした。お医者さんが笑って、いろいろな話をしてくださったのです。すると、あんなにも苦しい、怖いといった気持ちがすっと、魔法のように消えたのです。お医者さんの話は確かにおもしろかったのですが、それ以上に、私は、お医者さんの笑顔に救われました。お医者さんの笑顔こそが、私にとっての処方箋だったのです。さらに、この処方箋のすごいところは、笑った本人だけが幸せになるのではなく、その周りも幸せな気持ちにしてくれるところです。病室を訪れてくれる両親、兄弟、親戚の顔にも笑顔が増えてくるのを目の当たりにしました。

 また、この処方箋が、私だけのものかというと、そうではないらしいのです。笑うことで、免疫力や抵抗力が上がったり、頭をリラックスさせたりする効果があるという研究が報告されています。また、驚いたことに、それは、作り笑いでも効果が出るというのです。口角を上げることで表情筋が動き、脳が笑っていると錯覚し、気分がほぐれるそうです。人間って、賢そうに見えて、案外、単純なところがあるのですね。ただ口角を上げるだけで、幸せを感じることができるのです。

 ところで、人は、1日に何回笑うか知っていますか。子どもの頃は、1日に300回から400回笑うそうです。それに対して、大人は15回で、30分の1になってしまうそうです。言いかえると、子どもは3分に1度笑うのに対して、大人は1時間に1回も笑わないことになります。笑うことで、幸せになれるのにもったいないと思いませんか。フランスの哲学者・アランは、「幸福な人は、幸福だから笑っているわけではない。笑っているから幸福になるんだ。」と言葉を残しています。

 笑うのがつらいと思える日があるかもしれません。勉強や仕事が辛くて前に進む気持ちがもてないことがあるかもしれません。悲しい気持ちになったとき、大きな壁にぶちあたった時、どうしようもなく打ちのめされて立ち上がる気力がもてない時・・・そんな時は、それでも、笑ってください。いいえ、口角を上げてください。ひとつ飲めば笑い顔、ふたつ飲めば幸せに、みっつ飲めば福を得る、誰でも手に入る処方箋。

 この魔法の処方箋は、みなさんに効果がありそうですか。もし、その効果を少しでも実感できたら、この処方箋をあなたの周りの人に渡してあげてください。幸せの輪が広がるはずです。みなさんの幸せを私は笑顔で願っています。