第42回少年の主張 福島県大会 優秀賞

明日への助走

川俣町立川俣中学校 2年 齋藤 きあり


 「どんなに悔いても過去は変わらない。どれほど心配したところで未来もどうなるものでもない。(大切なことは)今、現在に最善を尽くすことである。」

 これは、パナソニックを築き上げた経営者松下幸之助さんの言葉です。みなさんは、この言葉を聞いて、どう感じましたか。「今」を大事にできているでしょうか。

 私は、幼い頃から運動することが好きで、陸上、水泳、駅伝と積極的に行ってきました。中でも、夢中になったのは、陸上競技の走り幅跳びです。助走をつけて、地を蹴り、前に向かって跳ぶ。走り幅跳びの醍醐味は大きな跳躍です。自分の思うような跳躍をして、前よりずっと遠くに跳べた日は、どんなことよりも嬉しい。

 しかし、そんな充実した日々が、昨年けがをしたことで奪われてしまいました。病院に行くと、「疲労骨折」という診断でした。ギブスが取れるまで運動は全面禁止となり、体育の授業も見学、県の走り幅跳びも駅伝大会も参加できませんでした。みんなは、練習や大会を通してどんどん実力を伸ばしていき、以前は競い合っていた仲間が遠ざかっていくような思いでした。そして、だんだんと、
「どうせ今小さなことを努力したってみんなには追いつかない。もういいや。」とあきらめの気持ちが生まれました。

 そんな時です。陸上クラブの友人から、
「きありちゃんは習字も得意なんだから、今は、陸上以外にも目を向けてみたら?」
と声をかけられたのです。陸上以外のことに目を向けるなんて考えてもいませんでした。私は、自分のけがのことばかりを考えていて、いつしか大切な「今」を無駄にしていたことに気づきました。走り幅跳びでは、助走のときも踏切のときも、目線を落とすと遠くには跳べません。目線は前に向けることが大切です。この時の私は、考え方もマイナスで、未来を見る目線は完全に下を向いていました。こんな状態では、学習も、幅跳びも上達するはずがありません。この友人からの一言は、私が前を向くきっかけとなりました。

 今を精一杯生きると、見えることがたくさんありました。けがや病気で思うように体が動かない人たちの辛い気持ち、困っているときや落ち込んでいるときの人からの優しさ、そして、こんなに悔しい思いをするほど陸上競技が好きだという強い気持ちです。普通に生活していたら、きっと見えなかったことばかりです。このようなことに気づくと、自然と気持ちは前向きになっていきました。今、自分が行動すべき事がわかるのです。けがの治療をしながら、今できる範囲の練習を行う。また、陸上部の先輩や友人のサポートをする。今を生きることは、私にたくさんのことを教えてくれました。陸上競技だけではありません。勉強も同じです。病院での待ち時間を、定期テストに向けた勉強に使ったり、習い事である習字に集中して、たくさんのコンクールに出品したりしました。その結果、成績は上がり、書き初め展では「書き初め大賞」を受賞することができたのです。「どうせ今何をしたって・・・」とあきらめていたころと比較すると、毎日が輝いて見えるようになりました。

 現在の私は、まだ軽いジョギングしか行うことはできません。また、いつ以前のように跳べるようになるかわからない状態です。でも、いくら未来を心配したところでどうなるものでもありません。大切なことは、今、現在に最善を尽くすことなのです。それを知った私は、大会に参加できる日を夢見て、助走を始めたばかりです。今の自分の努力は必ず未来につながる。来るべき日がきたら、力強く地を蹴って、誰よりも遠くへ跳べる気がします。「今を生きること」、それだけで、今も未来も、きらきらと輝いています。