第42回少年の主張 福島県大会 優良賞

差別をなくすために

南相馬市立小高中学校 3年 荒井 龍清


 2020年は、オリンピックイヤーと言われていました。日本にとっては、「復興五輪」として、東日本大震災と、それに伴う原子力発電所の事故を乗り越えようとしていることを、世界に向かってアピールできる機会でもありました。しかし、そんな希望を打ち砕くように、今年2月上旬、中国の武漢で確認された新型コロナウィルスが、脅威の感染力で短期間のうちに世界中に広まっていったのです。

 世界中で経済活動の自粛が呼びかけられ、多くの企業や商業施設、飲食店等は休業を余儀なくされました。中には倒産してしまったり、お店をたたんでしまったりと、大きな損失を生んでいます。人々は、「ステイホーム」、「うちで過ごそう」と外出を控え、県外、国外への移動を避けることで、感染拡大を抑えこの危機を乗り越えようとしています。そんな中、世界中で重大視されている一つの問題があります。それは、差別問題です。

 特にショックを受けたのは、アジア系の親子が暴行を受けた事件です。暴行を加えた犯人は、相手がアジア系の人種であるというだけで、「新型コロナウィルスを感染させようとしていると思った。」と話しています。その親子は、ただ買い物をしようとしていただけなのです。このウイルスがアジアから広がったというだけで、差別や偏見の対象になるなどということは、決して許されることではありません。しかし、残念ながら、日本国内でも同じようなことが起きています。緊急事態宣言中にやむなく営業を始めた飲食店に対する誹謗中傷。感染者の個人情報を特定し、SNS等によって拡散するなどの誤った正義感・・・。なぜ、差別や偏見は起きてしまうのでしょうか。なぜ、そうした行為に疑問を感じない人がいるのでしょうか。

 残念なことに、差別問題は人類の長い歴史の中で多く存在します。身近な問題としては東日本大震災による原子力発電所の事故後の福島県や相双地区への風評被害です。当時、事故の影響で、福島県産の農作物や海産物の放射線量が基準値を超えてしまいました。十分な検査が行われ、安全が保障されるようになった現在も、「福島県産」だというだけでお店に置いてもらえない、買ってもらえないという状況が一部であります。その被害の対象は、物だけではありませんでした。故郷を離れなければならず、辛い思いをしている人々が、避難先でも差別されたりいじめられたりしたという話をよく聞きます。私も南相馬市に住んでいるので、そのつらさや苦しみがよくわかります。自分の大好きなふるさとが、根拠もなく悪く言われ、危険だと避けられることに、強い憤りを感じます。 今回の新型コロナウィルス感染症による差別問題について、福島県知事は、私たち福島県民にこう呼びかけました。

 「原発事故による風評に苦しめられている福島県民だからこそ、新型コロナウィルスの陽性になった方やその関係者に対する差別や偏見は、なさらないよう切に願います。」

 知事は、福島に生きる人として、この問題に人一倍心を痛めたのではないかと思います。私たち福島県民は、いわれのない差別や偏見の目を向けられる悲しさや悔しさを経験してきました。だからこそ、相手の気持ちに寄り添うことができるはずです。

 世界から産別問題をなくすために大切なことは、相手の立場に立つこと、思いやりを持った言動を心がけること、正しい情報を得ることです。そして、過ちに気付いた人々が、これらを伝えていくことです。自分と違うものを理解しようという心や、目に見えないものへの不安と恐怖に侵されることなく、相手の本当の姿を見ようとする意識が必要なのではないでしょうか。