第42回少年の主張 福島県大会 優良賞

「言葉」の力

南相馬市立原町第二中学校 3年 門馬 有花


 「志村けん。死んでくれてありがとう。」
 この動画のタイトルを目にした瞬間、私はあまりの衝撃に言葉を失いました。その動画は、「志村けんがコロナウイルス感染により亡くなったことで、若者たちがこの病気は恐ろしいものだと危機感をもった。ありがとう。」というものでした。「死んでくれてありがとう」という言葉を目にしたら、どのような気持ちになるでしょうか。

 「ありがとう。」
 それは、感謝を伝える言葉。私も様々な場面で「ありがとう」と言ったり、言われたりします。例えば、助けてもらったとき、勉強を教えてもらったとき、うれしいことを言われたときなど、誰もが口にすると思います。「ありがとう」という言葉は、言われた相手だけではなく、言った自分自身の心をもほわっと温かくするような言葉だと思います。

 しかし、先ほどの「ありがとう」は、私が今まで言われてきた心温まる言葉とは、別の言葉のように感じられました。志村けんさんの死をまるで歓迎しているかのように感じ、本当に不快に思いました。もしかしたら、この動画をアップした人も、志村さんの死を心から悲しんでいたかもしれません。しかし、このタイトルを見た人たちは、私と同じように解釈してしまった人も多かったのではないでしょうか。ましてや、遺族の方々はどう感じたでしょうか。

 言葉は、言い方や使い方で相手の気持ちを左右する影響力の大きいものです。相手にかける言葉によって、人の心を動かしたり、人と人との心をつないだりもします。一方で、人を傷つけ、命をも奪ってしまうことだってありえます。それほど、私たちの使っている言葉には大きな力があるということを一人一人が理解して使わなければなりません。そして、SNSという直接顔を合わせないで行われる会話のようなものにおいては、相手の反応を直接見ながら会話することができません。そのため、その場で言い直しができず、どのような意図で発言したのかを十分に相手に理解してもらえるとは限りません。だからこそ、誰が読んでも誤解がないように書き表さなければなりません。そして、読み手のことを意識し、自分が発信する言葉に責任をもたなければなりません。

 私は、ある先輩から言わされた「ありがとう」によって心が動かされたことがあります。私は楽器の名前もわからない素人でしたが、見学にいった打楽器パートの先輩の演奏に見とれ、吹奏楽部入部を決意しました。中学から始めたので、打楽器の扱い方、演奏の仕方、楽譜の読み方など一から教わりました。自分の練習もしなければならないのに、先輩は丁寧にご指導してくださいました。そんな先輩が引退するとき、手紙をいただきました。その手紙には、
「この2年間、一緒に演奏できてうれしかったです。ありがとう!」
と書いてありました。私は別れが辛くなると思い、泣くのを我慢していましたが、 その言葉を目にした瞬間、涙がとめどなくあふれてきました。一番迷惑をかけたであろう先輩から「ありがとう」の言葉をもらえるとは思ってもいなかったので、今までに味わったことのない、幸せな気持ちになりました。そして、今度は私が後輩たちのために頑張ろうという気持ちに突き動かされました。

 私は今、吹奏楽部の部長を務めています。コロナウイルスの影響により、夏のコンクールが中止となってしまい、残念な気持ちでいっぱいです。そんな時だからこそ、部長として先輩方から教わったことを後輩たちにしっかりと引き継いでいきたいと思っています。技術指導だけではなく、あいさつや返事の大切さなどを伝えていくことも大切です。このような状況でも頑張っていられるのは、先輩からの「ありがとう」があったからです。だから、私もみんなが明るく、前向きに生活できるような「言葉」をこれからも掛け続けていきたいと思います。